技術検定(施工管理技士)実務経験不備における不正受検問題

  • 2022年12月21日
  • 2022年12月21日
  • コラム
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さて、この令和4年の師走にも明るみに出た技術検定における不正受検問題。

この不正受検問題(不正による資格取得)は技術検定全般の問題であり、建築施工管理技士のみならず、土木・造園・電気など多くの業種で顕在化している問題となっています。

 

多くの人にとっては関係のない問題ですが、

・実務経験の算定年数の認識の相違。
・実務経験の書類はその当該企業が印を押す。

という部分から、二つのところで結果的に不正(誤り)が起きているように思います。

また人出不足による企業側の資格取得への必死さも結果的にマイナスになっているのかもしれません。

本記事のポイント

・不正受検のニュースをPICK UP
・国土交通省の対応・検討内容
・受検者なら知っておきたい実務経験

技術検定(施工管理技士)不正受検問題のニュース

 

2019年12月19日 内部通報が暴いた大和ハウス工業の重大な不備(ITメディアビジネス)

同社の施工管理技士資格保有者は4143人いる(2019年4月22日段階)がそのうち349人が受験資格を満たしていないにもかかわらず合格していた。

2020年6月12日 西武子会社、4社65人が施工管理技士など不正取得(日経クロステック)

西武ホールディングス(HD)は2020年6月12日、西武建設(埼玉県所沢市)など子会社4社の役員や社員ら65人が、1級土木施工管理技士や1級建築施工管理技士など9種類の国家資格について、受験に必要な実務経験を偽って取得していたと発表した。

2020年3月19日 東レ子会社で国家資格不正取得か 国交相が究明指示(日本経済新聞)

東レ子会社の水道機工の社員が国家資格「1級土木施工管理技士」を不正取得した可能性があるとして、原因究明と再発防止を指示したと明らかにした。

2020年11月27日 パナソニック、技術者資格を不正取得か 第三者委設置(日本経済新聞)

パナソニックは27日、子会社のパナソニック環境エンジニアリングやパナソニックコンシューマーマーケティングの2社で、施工管理技士や監理技術者の資格を一部の社員が必要な実務経験を満たさず不正に取得していた可能性があると発表した。
関西電力は20日、グループ全体で社員180人と退職者17人が、国家資格の施工管理技士を不正に取得していたと発表した

報道されているのは全て大企業もしくはそのグループ企業であり、不正な資格取得は全て『実務経験』を充足しないまま受検して資格を取得しているというものです。

まさに昨今の建設業の人手不足&資格者不足が招いたものと言って良いでしょう。

技術検定不正受検防止対策検討会(国土交通省)

そういった企業の不祥事・不正に対して、国土交通省も順次対応策の検討を進めています。

2020年11月10日の報道発表では、

国土交通省は、施工管理技術検定試験において不正受検が連続して発生したことを踏まえ、有識者による「技術検定不正受検防止対策検討会」を設置し、同検討会の提言がとりまとめられましたので公表します

この『技術検定防止対策委員会』の設置目的は、

 令和元年 12 月、大和ハウス工業(株)から、技術検定に関し、同社の職員が保有する施工管理技士について、受検時における実務経験に不備があったことなどが プレスリリースされ、国土交通省にも報告された。
その後、西武建設(株)・西武造園(株)や水道機工(株)・(株)水機テクノスなど、他の企業においても同様の事例が発覚した。 これを受け、国土交通省は、同社に対し原因の究明や再発防止策の徹底などを指示するとともに、同様の不正受検が発生しないよう関係業団体に周知を行うなどの措置を講じてきた。 技術検定の合格者は、建設業法に基づき「施工管理技士」の名称を付与され、建設業許可登録時の営業所専任技術者や工事現場において監理技術者・主任技術者と して多くの者が配置されており、今回の事態は、建設工事の適正な施工を確保する ための技術者制度の信頼性を損ないかねない問題である。 今回の不正事案に対して、技術検定の受検プロセスにおける課題を把握した上で、 実現性のある再発防止対策の検討を行う必要がある。 このような状況から、学識有識者や関係業団体等を委員とする「技術検定不正受検防止対策検討会」が設置された。今回、不正受検事案の発生要因等を踏まえ、不正受検の防止対策について検討を行い、提言として 公表するものである。

国としては一連の不正受検について、建設工事の適正な施工を確保するための技術者制度の信頼を損いかねないと、事態をかなり重く見ているようです。

今回提言された内容はこの参考資料の通りです。

受検に必要な実務経験

実務経験年数と受検資格

実務経験については一応復習しておこう。

  • 技術検定では、最終学科・終了した学科に応じて、受検に必要な実務経験年数が課せられている。
  • 1級技術検定では、実務経験年数のうち、『指導監督的立場での実務経験』が1年以上必要である。
国土交通省HPより

私の場合だと大学文系卒でしたので、卒業後4年6ヶ月以上の実務経験と、そのうち1年は、『指導監督的立場での実務経験』が1年以上必要という事になります。その際は必ず、1級技術検定実務経験証明書が必要となり、自らが実務経験を記載してそれを会社が証明する形になります。

また高等学校卒等で、より高度な経験を積んだ場合の実務経験の短縮措置も下記の通りあります。

国土交通省より

以上な実務経験を経て、受検の際は下記の通り実務経験を記載する必要があります。

新規受検者の申込書記載例

上記に記載の通り、これが受検をする上で一番重要な書類(B票)となっています。

2級の受検資格も入れておきますが、こちらであまり問題になることはないでしょうね。

いずれにせよ1級建築施工管理技士(建築工事に限らずですが)の資格を取得して、監理技術者講習を受けると晴れて『監理技術者』となるわけです。

元請の建設業者は、下請請負金額の合計が4千万円(建築工事業の場合は6千万円)以上の場合、「監理技術者」 を配置しなければならない。
監理技術者は上記のような規模の建物の管理を統括するわけですから、その施工上の技術を担保する上でも、実務経験を重要視しているわけです。

認められる実務経験とは?

まず実務経験として認められる職務経験とは?

  1. 受注者(請負人)として施工を指揮・監督した経験(施工図の作成や補助者としての経験も含む)
  2. 発注者側における現場監督技術者等(補助者としての経験も含む)としての経験
  3. 設計者等による工事監理の経験(補助者としての経験も含む)

次に実務経験として認められるその工事の際の立場は、

  1. 施工管理(請負者の立場での現場管理業務) →工事主任、工事係、現場代理人、施工管理係 等
  2. 施工監督(発注者の立場での工事監理業務) → 発注者側監督員 等
  3. 設計監理(設計者の立場での工事監理業務) → 工事監理 等

多くの方は①に該当するかと思いますが、設計工事監理発注者側の監督技術者でも実務経験として認められます。

提言内容のまとめ

今回の提言内容(対策)についてまとめておきたいと思います。

この問題の根本は実務経験を充足していないにも関わらず、実務が満たしているとなされ受検し資格を取得しているということです。

不正受検の概要(実務経験が満たさないまま資格を取得している問題)

①不正受検が起きている原因と課題

  • 受検者・証明者の理解不足(工事履歴などの記録・管理が不十分など)
  • 受検者・証明者による虚偽・不正

以上の2点が課題です。

具体的な実務経験の不備は下記のパターンが多いとのこと。

国土交通省より
①は工事種別を厳格に認識すること。
②は工事期間を明確にし厳格に実務経験期間を計算すること。
③建築工事請負における他業種の下請けに出した工事はNGと認識すること。

 

私の場合、ほぼ建築工事での請負だったので、実務経験期間の認識不足はありませんでした。

また建築工事の中での電気設備工事は多くあるので、実務経験年数も満たしているかと思っていましたが、③他業種の下請に出した工事はNGとあるので、電気施工管理技士受検資格の実務を満たさない事はこの記事をまとめながら初めて認識しました。

こう言った事が多く発生する要因は、

  • 社員に監理技術者たる資格の取得を企業が強く推進する。
  • 建築施工監理技士ならば、他の業種の施工管理技士の資格の取得を企業が強く推進。(他の工事受注のため)
  • 昇格の要件として、複数の施工管理技士取得が設定されている。

特に複数の資格取得を目指した際に、この問題が多く頻発しているようですね。

1級建築施工管理技士の受検資格についてまとめました。

不正受検への防止策

この防止策の概要も、国土交通省はいろいろ記載されていますが、ポイントだけ見ておきたいと思います。

不正受検に対する防止対策は上記のようにいろいろ記載されていますが、現在はまだ『提言』の域を超えておらず具体的なものではありません。色々なハードルがあり、また手続きが煩雑になれば、受検者の大きな負担にもなり難しい問題であるとも言えます。

一番即効的な解決方法は、上記にあるうちの、

  1. 発覚後の企業名公表
  2. 企業のペナルティの明確化

この2つに尽きるのでないでしょうか。特に大企業の場合、死活問題で大きな信用を毀損します。

データベース化などは国がやるとかなり時間がかかりそうですよね(笑)

また、

  1. 『受検の手引き』の記載内容の明確化
  2. チェックリストの活用

これは受検資格の理解不足で起きた問題には必要でしょうね。受検資格の記載は本当にわかりにくいです。というよりも、もう少し簡略化も必要かと思います。

 

あと、なぜこの記事を書いたかと言うと、

試験問題の見直し

というのがあったからです。

  1. 経験論文は、定型的な出題内容・方式となっているため、実務経験に不備があっても、対策本等で勉強することで解答できてしまうとの指摘もあり、出題内容・方式の多様化に向けた検討が必要である。
  2. 経験論文の出題内容の見直しにあたっては、①受検者の公平性の視点、②実務経験要件として求める能力の評価方法の視点から検討する必要があると考えられる。
  3. 経験論文の解答内容は、受検者の工事経歴であるかの確認が難しいことから、高度な応用能力を確認できる出題内容に見直すことはどうか。

と言うように記載されていました。

⇒実際に、令和4年の施工経験記述は1級、2級とも現場経験があり、それをうまく言語化できないと難しい問題であったように思いまう

 

また最近の傾向としては、ある程度広範囲にしっかり勉強しておかないと合格が難しい傾向になっているのは事実です。その方向が今後より明確化される可能性が高いと言って良いでしょう。

最新の国土交通省の発表(2021年7月26日)

先日の国土交通省のリリースです。

この発表の趣旨は、

技術検定の不正受検や粗雑工事への対策を強化するため、「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」を改正し、不正に資格等を取得した技術者を工事現場に配置した建設業者や、粗雑工事等により工事目的物に重大な瑕疵を生じさせた建設業者に対する監督処分を強化しました。また、「技術検定の受検禁止の措置に関する基準」を改正し、受検者の出願に関する不正行為に係る受検禁止措置を強化しました

技術検定に関する、実務経験不備及び不正受検に関する処置として、

(1)監督処分の基準
(ア)主任技術者等の不設置等に係る営業停止処分の強化

■ 技術検定の受検又は監理技術者資格者証の交付申請に際し、虚偽の実務経験の証明を行うことによって、不正に資格又は監理技術者資格者証を取得した者を主任技術者又は監理技術者として工事現場に置いていた場合には、30 日以上の営業停止処分とする。
(2)受検禁止の措置に関する基準
虚偽の出願における3年の受検禁止に加え、制度の不理解等による出願に関する不正行為についても、原則1年の受検禁止とする規定を追加

このように、

・虚偽の実務経験証明を行う → 企業に処分
・不正受検 → たとえ本人の不理解であっても1年の受験禁止処分(個人)
建設業に携わる以上、企業及び個人の無知はいけませんし、コンプライアンスも守って下さいね、ということです。

まとめ

今回の不正受検の問題では既に企業の名前が報道されており、社内資格者を増やすために実務経験証明書に記載されたものを企業側が問題意識なく証明していった側面が多くあるのかと思います。

一方で、今後受検される方も、今まで以上にチェックは細かくなっていくだろうし、個人としても今後実務経験については厳格にチェックしていく必要があるでしょう。

一番重要なのは、国土交通省としても『監理技術者』はある一定以上の技術力を有する事で、建物施工の品質を確保していくという方針が明確になっています。

来年度以降に限らず、本年度もこの資格を取得するために、

  1. 正しい知識を身に着ける。
  2. 身に付けた知識を文章にする事が出来る。
  3. 施工経験記述は対策本などの丸暗記はせず、自分で論理構成が構築できる。

と言う事が重要だと思います。特に③の施工経験記述は『施工の合理化』や他の課題であっても、全く同じ出題パターンではなく、違った問われ方をすると思っていた方が良いと思います。

さて現在、当法人では企業向けに建築施工管理技士資格取得支援サービスを展開しています。

その中で受検者の実務経験チェックもサービスに含んでいるので、良かったら下記の記事を読んで頂けると幸いです。

 

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